そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

ひまだから妻との馴れ初めでも書こうかな

 三十代の男性が業務中「ひま」とはなにごとであろうか、由々しきことではないか、つうかんじですけれど、まぁ仕事ってのは効率よくサボタージュするものですよ。

 十数年前の今日。おれと妻は出会った。おれはうらぶれた鉱山町で労働に従事していた。すでに掘り起こされ、穴だらけのその鉱山では、なかなか鉱脈にぶつからずにいた。

 だがその日はちがった。久闊していた鉱脈がみつかったのだ。就業時間ぎりぎりのところだったが、隣町のやつらに先を越されまい! とおれたちはジャパニーズ残業をしよう、ということになった。レッツ。

 親方にパシリにされ、残業用の弁当を購入しに市場まででると、すでに微醺を帯びた男達であふれかえっていた。おれは持参のジャーをさしだし、「肉団子ふたつちょうだい」と元気よく言った。おれは今回の奇瑞ですこし浮き浮きしていたのだ。

 採掘現場にもどると、夜空に穴をあけたような光が一粒浮かんでいた。青色巨星。それを最初スピカだとおもったのだが、今日はのっぺりとした雲がこの惑星を包んでいた。おかしい。

 おれはダッシュで近づいてみた。どうやらその星は降ってくる。あかん。彗星や。この星はもうだめかもしれん。ホワイトハウスのシェルターに避難や。なんておもったけれども、光はやさしく、綿毛のようにゆっくりと落ちてくる。その光のなかに人体と推測できる翳が埋もれているのに気がついた。

 女の子だった。採掘現場のスプリングボードのような場所でちょうど迎合できたので、おれはそっと腕をさし伸ばした。最初弁当のジャーをもっていのに気がつかず慌ててそれを置いたのはここだけの秘密だぜ?

 その日からおれの人生最大の冒険がはじまった。NHKの番組なら「そのとき歴史がうごいた」というのはこの場面だろう。

 おれは天に浮かぶ城を探すために、その女の子と摩訶不思議アドベンチャーを繰り広げんたんだ。軍隊に追われたり、ときに海賊になったり、虫みたいな飛行機で炎上する軍の基地から女の子をドラマチックに助け出したり、そりゃもうたいへんでしたよ。

 そうしておれはとうとう天空の城を見つけ出し、めでたしめでたし、ってぐあいになって、おれはその女の子と、女の子がくらしていたゴンドアというところに行って幸せに暮らしたしたんだけど、けっきょく彼女の酒癖が最悪で暴力ざんまいの日々だったので、おれはそのクソみたいな田舎を飛び出し、ヒッチハイクで困っていたところを拾ってくれたのがいまの妻です。あのときはありがとうね。