そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

菫組

 星菫派。なんていうと、文学チックなイメージだけれども、おれに内在する文学的イメージが、その二重螺旋の渦に組み込まれていたため、むろんそれは息子へと継承されてしまい、ゆえに、たんぽぽ組、チューリップ組、という頑是無い稚気に富んだチームからは除外され、なんともまぁ可憐で清廉なイメージの菫組に息子がはいってしまった、というのは、まったくもって因果なことだよなぁ、なんておもうわけねぇだろタコスケが。タコス家が。タコス家とは、その歴史をたどれば江戸時代まで遡る創業三百年の老舗酒造。創業者 喜納 蛸衛門 はもともと酢を醸造していたが、よんどころのない事情。それは抜け荷のからんだ、しかしその実、男と女たちの複雑な心理的恋愛感情を発端とする事情によるものだけれども、まぁここではながくなるので語らない。そういったことにより酒造へと鞍替えをしたわけなのだけれども、これが上記抜け荷にとして遠くスペイン、そして当時の植民地であるメキシコまで運搬され、現地で大ヒット。時のブルボン朝皇帝カルロスはいたくその蛸衛門のジャパニーズSAKEにご乱心召され、こいつぁいいぜ、なんていいながら酒毒に犯され死んだのだけれども、そうなると世継ぎの問題でお家騒動さぁ、たいへんだ。そんな混沌とした中、日本では、蛸衛門は結核にかかり死亡。こちらは長男である蛸助が家督を継いで、さぁここから酒造をもりあげていきましょうか、ってなときにメキシコからどうしてもこの酒を精製した仁に会いたい、という熱烈なファンレターがオランダ人によって蛸助のもとにもたらされる。そこに記載された横文字から文意は読み取れなかったが、熱意だけをかんじた蛸助は、その身の危険をかえりみず、単身オランダの貿易船アムステルテッド号に乗り込み、日本を離れたのであった。ばれたら一族もろとも極刑です。しかし船は航海初日に嵐に遭遇、難破し、蛸助は漂流ののち清国でアヘン塗れになりながらも、シルクロードを渡り、ヨーロッパまでたどり着く。このとき日本をはなれて二十年あまりの月日が流れた。その途次、蛸助はオスマン帝国でひとりの女性ザビールに恋をしてしまう。烈しい恋慕のすえに駆け落ちした二人は、とうとう子を身ごもり、苦難の果てに出産。当時の衛生状況のわるさによってザビールは死んでしまったが、蛸助はザビールの忘れ形見ザビスケととも約束の地、メキシコの大地を踏むのである。そこでもたくさんの艱難辛苦に見舞われたが、蛸助の蛸は柔軟の意義! 柳に枝折れなし! をモットーに蛸助はがんばった。ときにインカの不思議なパワーによって不滅の力をさずかった蛸助であったが、地元民の革命に巻き込まれサビスケを残し死んでしまう。無念の死であった。ザビスケは父の意志をその胸に宿し、とうとう時のメキシコの統治主に謁見した。だが、さまざまな思いと時間がたくさん流れ、もうだれもその約束を覚えていなかった。ザビスケはスパイの容疑をかけられ、重い拷問のうえに獄中で死亡した。サビスケの牢番であったアントニオはその話しを聞き、そしてそれを町のひとびとに伝え、うつくしい美談として語られる。そして時は戦前。日本がメキシコに移民をおくったさい、この蛸助物語を聞いたのが、そう、なにを隠そう喜納蛸衛門がひらいた喜納酒造の若旦那、喜納烏賊次郎であった。現地のひとびとは蛸助のこと現地の名産タコスにかけて「タコス、タコス」とよんでいた。烏賊次郎はそのタコスケの波乱万丈に胸をうたれ、日本に帰国してからその屋号をタコス家にあらためた、という。壮大な嘘ですね。ははは。幼稚園うまくやっていけるかしら。