そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

新築街の悪魔

 家庭のあたらしいメンバー、螳螂のラッキーくんに餌をあたえるため、ちかくの畑まで歩を運び、モンシロチョウの乱獲をおこなっているため、いま世界ではモンシロチョウが絶滅の危機に瀕しているという。ゆゆしきことである。

 

 さいきん、虫に対する属性がついたというか、むしろその先。すなわち、虫を捕獲することに一種の快感を覚え始めたというか、中空をふくむ三次元を自由闊達に飛翔する虫けらをタモにおさめるあの瞬間、「勝った」とおもう。そして、おれの脳内にはアドレナリンとかドーパミンとかセロトニンとか云ったさふいふものが放出されてゐるのだらふ。

 

 さふしてゐると、近所の子どもたちも外に出てくる。ようたにとって年上の子が多い。小Ⅱ、小Ⅰ、五歳児が三名。四歳児も他に二名いる。ほかには三歳児が二名。二歳時が一名。一歳児が一名。そしてわが係累であるゼロ歳児が一名。子どもめっちゃ多い。

 

 ようたは四歳児に比してでか目なので、おそらく五歳児を自分と同等にみているふうがある。なので年上の子たちとよくつるんでいるのだが、かけっこでもボール投擲でもついて行けない。ルールもまだあまり通じない。なので、よく負けたり、置いてかれたりして泣いている。

 

 サムライの魂をもっているのか、気位が高い。プライドだけはいっちょまえである。負けることは死ぬことよりもつらい。強くあれ。それでもみんなと遊べるのはとても楽しそうだ。

 

 莞爾と笑うその顔をみていると、ここに引っ越してきてよかったな、とおもう。公園に行かなくても、子育て支援センターみたいのに行かなくても、遊べるお友達がたくさんいる。たのしそうである。こないだみんなで虫々マウンテンを普請した。

 

 おれは苦手だが、親同士の付き合いも良好である。妻は近所のひとと話しているのが楽しいと云う。さらに云えば、親の援助が得られないおれたちだが、近所のひとが「ようたくん見てるよー」と云ってゼロ歳児の授乳中にようたを預かってくれる。すごく助かっている。

 

 おれたちは運が好いとおもう。きっとこれは特殊なケースなのだとおもう。ありがてぇな。マジで。

 

 しかし、この周囲には子どものいない家庭もいらっしゃる。地獄だとおもう。土日、宵闇がこの町をつつみこむまで、子ども甲高い声が響き渡り、市道、私道を駆け回る子どもたちに気兼ねして車を発進させるのにも細心の注意が必要なのである。

 

 そういった子ナシファミリーを思うと、ここは悪魔の住む場所のようにおもう。つらいだろうなぁ。いや、おれらが「大きな声だすな」と諌めればよいのだけれど、子どもが数人あつまればコントロールが効かない。いや保育園とかたいへんだとおもう。

 

 そんな悪魔的な新築街であるけれども、子アリの当事者であるおれたちにとっては、マジけっこういいかんじの住みかだとおもう。足元には白墨で描かれた解読不可能な記号の連続。耳をつんざく金切り声。見上げた空には入道雲が緋色に染まっていた。おれの肩にある涙の滲みに夕風が吸い付いてひんやりとする。ちいさな世界が回っている。