おれの生き辛さ
禍福は糾える縄の如し。ってゆうのはほんまですやん! なんておもう。
おれは時に人生が順調すぎると恐怖をかんじる。福がつづきすぎる結果、とんでもない凶、いみじき禍事がおれを待ちうけているんじゃなかろうか。そんな不安で胸が支配される。
その夜もそうだった。穏やかな夜気につつまれた、すごしやすい、静かな夜だった。子どもは早く寝るし、購入したグリーンオリーブはうまかったし、録画しておいたアメトークはおもしろかった。なにより浮かんだ月のうつくしい、しあわせな夜だった。
だが、しあわせはつづかない。おれに静かな日々はにあわない。男の定めさ。オリーブをいれていた小皿を片そうとおもい、シンクに小皿をおき、蛇口のレバーを上げた瞬間、それはおこった。蛇口から流れたひとすじの清流は、四方八方にとびちったのだった。
なぜか。匙である。匙の匙たるぶぶん。そのくぼみが虚空をのせていた。それは水流が着地するマジジャストの位置であって、勢いづいた水流はひらたいくぼみの中に落ちた。するとどうなるか。水は無形ゆえに、くぼみ状にあわせ、鮮やかでうつくしい、とうめいのアーチをえがき、四方八方に飛散するのであった。
おれのパジャマ、その腹部はぬれぬれに濡れ、ぐっしょりとしぼれるほどに重くなった。いつもこうだ。おれのしあわせは続かない。なぜいつも匙はその場所に、その匙のスプーンポイントを上向きにし、蛇口の真下にいるのか。そしてなぜおれはいつもこんな失敗ばかりするのか。ほんといやんなる。