そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

沛然

 嘘みたいに晴れている。たぶん嘘なんだとおもう。マジかよ。嘘つきは泥棒のはじまりっていうぜ。

 昨晩。電車を降車し、駅のホームの階段を上がり、にんげんの潮流に押し流され、改札をスマートタッチでぬるりと抜け、さらにそっから階段を下り、「上ったり下ったり二度手間だな!」と思いながらロータリーを横目に、目指す場所は北。北上せよ。ってなぐあいに帰路についていると、おれの頬に一粒の雫がはじけた。

 超雨。嘘だろ。なんでちょうどふってくんだよ。嘘だろ。ってなっておれはこれを嘘だと信じてそのまま帰宅することにした。

 雨は、夜の闇に染まって見えなかった。透明な雨だった。昼に降る雨は灰色で見える。にごった雨。おれは見えないものは信じない。音楽なんて存在しないとおもっている。

 でもちょっとほんとうだな、ともおもった。なぜなら県道にでると、車のヘッドライトに照らされたアスファルトの路面に雨粒が弾けていたからだ。コップに注ぎたてのコーラみたいなその雨たちは、光のなかでげんきに踊っているみたいだった。

 でもおれは信じない。だって雨が見えないからだ。嘘やーん。なんでそんな嘘つくん? あたしばっかや。あたしばっか不幸や! と、おれは世界がこんなにもおれだけに嘘をつき続けることにたいし、悲しさと悔しさで胸がいっぱいになってしまった。喉の奥が熱くなっておれはいつのまにか顔面がびしゃびしゃ。あーあ、ゆうちゃん泣いちゃった。

 三十一歳。嘘をつかれて泣く。しずしずと泣く。狂った世界で狂っていないと狂っているとおもわれる。このままじゃやばい。逮捕されちゃぞ。ミニスカポリスに。って、おれは精一杯涙を拭おうとおもったんだが、すでにおれの涙はおれの全身を濡らしてしまっていて、もう涙を吸収させるばしょがなかった。モイスチャー。

 帰ってびしょびしょになっていたので、妻に「びっちょりやんけ」と言われた。おれは「急に雨が降ってきて」と嘘をついた。泣いたことが恥ずかしかったからだ。

 そしていまはもうウルトラ晴天。嘘みたいだけど。おれの気持ちも晴れ晴れとしている。あの陰惨な気持ちをまるっと盗まれてしまったみたいだぜ。