そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

俺、クリエイター志望

 酩酊し前後不覚、譫妄状態におちいることしばしばあり、まことにもってなさけない。自己にへきえき、鬱になって生きていることが恥ずかしくなる。その一例に謎のスケジュールというものがある。

 我が家というか妻と私はタイムツリーというスマートフォン専用アプリケイションをしようし、おたがいの予定を管理しあっている。ふと、今週末の予定はなにかあったかにゃぁ、と猫なで声でひとりごち、アプリケイションに目を注ぐと「いちごクリエイター」と入力されていた。超強力なメルヘン語録であった。

 メルヘン語録であるが、ないようがさっぱり思い出せない。ときおり私は意味のない芸術的な発言をしてしまう癖があるのだが、それかにゃぁ? と思い、その「いちごクリエイター」という語感のあじわいを矯めつ眇めつしていた。そうして地球の自転により、週末があらわれた。

 妻が、買い物にいくぞよ、と間投助詞がうざったい発言をするので、これは離婚だな、とおもったのだが、そんなことで離婚してしまえば、なんとなくこちらに分が悪いので超我慢した。しかし、はて? いったいなんの買い物かね? と熟慮したのだけれどもぜんぜん答えがでることはなかった。

 妻の意のまま傀儡となりはて、近隣のホームセンターに行き、合成樹脂でできたプランターと土を買った。土を買う。わお。すごいことですよこれは。だって土がカネになる。さいきんネットでどんぐりが販売されている、という話を聞き、驚愕の極みに至ったのだが、さらにそれよりもすっごいびっくりしちゃったよね。だって土だもん。土売る、って資本主義すげー。この星はいったい誰のものなのか。いまの地主は先祖がずうずうしかっただけ。って思いながら帰宅した。

 その夕。妻は妻の四次元ポケットから数株の苗をとりだした。いちごの苗だ、という。私の脳内に電流がはしり、脳内の情報と情報がぴしゃりと吻合した。なるほどね! っておもった。

 つまり、いちごの苗を植える。そして育成する。これを私は「いちごのクリエイター」と称していたのだ。そういえば、私は以前からクリエイターという創造者に羨望をいだいている。拙宅の近隣には野菜クリエイターがいて、とっても格好がよろしいのだ。

 そういうことで晴れて今日から俺はクリエイターの仲間入りを果たしたぞ。ってかんじになって、でもサラリーマンとの兼業はだいじょうぶなのかにゃぁ、と心配になった。でもいま時代は副業の風が吹いている。よし、俺はこの数株のいちごの苗から、とってもおいしいいちごをクリエイトして、専業いちごクリエイターとして巷間を勇躍するのだ! それまではサラリーマンとのダブルフェイスマンだけどきっとうまくいく。俺は自分をしんじる! つって奮った。

 しかしクリエイターたるもの、いままでの施工方法を踏襲しているだけではいけない。やっぱこうクリエイティビティに達しないとね。じゃあどんないちごを作ろうか。

 それはやっぱ俺の好きなものがいいよね。俺の好きなもの。うーん、ドクターペッパーだな、とおもった。なので、いちごのプランタードクターペッパーを与えた。果実は土壌の影響におおきく左右される、という秘術を知っていたからだ。しゅわしゅわと土壌に浸透するドクペの泡に滋味を覚える。なんつうことをしたら妻に怒られた。またこんど土を買いに行かなければならない。