そしてブルーズへの回帰

「まだロックが好き」のつづき

息子の虚言癖

 息子の三歳になるやつが、「私が仮面ライダーとなりて悪をほろぼす」とか云う。云うようになったもんだ。頃日はヒーロー系のものごとにこだわりだしており、脳の変化をかんじる。

 げんざいキュウレンジャーが放映されている。我が眷属は赤いものが好きなのだが、レンジャー部隊も赤が好きだ。キュウレンジャーの赤はたしかシシレッドというのだが、息子はそうは呼ばない。りんごニンジャと云う。

 正直ここまでかわいいとはおもわなかった。赤はりんご。ヒーローはニンジャ。りんごニンジャ。かわいい。ちなみに忍者をヒーローとする気概に望月性の宿命をかんじる。

 こういった適当な発言がぞうかしている。だれに似たのか虚言癖がある。あ、五月雨五郎はトニーウィリアムスの抜歯をした双頭のゾウだったんだよね、とか、あ、あそこの天空に夥しいほどの邪念が音符になってラシャメンのじゃがりこで墓穴掘ったんだよね、とか云う。なんだそれ。なにが見えてるの。

 さいきん、パパである私は「ほんとうはおさる」という設定になっていた。おさる、もしくはごりら、という配役がなされている。「ぱぱ、ほんとはおさるなのぉ?」と無辜な、いじらしい声を形にするものだから、「そうだうきー」とか云っちゃって、ほんともう、なんだか平和ですね。どこかの国で戦争をしているなんて信じられない。

 しかし、おさるもしくはごりら、の設定はたしか私自身が設えたものであって、「ぱぱほんとはおさるなんだよ」と云った気がする。さいきんはいろんなものを指差して「あれほんとはロボなんだよ」と教えるのが流行っている。

 自動車、家屋、電柱、スマホ、テレビ、鍋、ティファール瞬間沸騰メカ、栗、すずめ、歌舞伎役者、ぱんだぞううさぎを模したスプリング遊具、などを指して「これほんとはロボなんだよ」と教えるのが俺のブーム。

 そんなこんなで楽しい毎日を送っている。でもこのあいだ帰りの途次にて、自動販売機の背面がだしぬけに分裂し、なかのメカ類が回転し、それらが腕や足となってトランスフォームしてロボ形態になった。こわい、とおもったが、自販機ロボは身体をゆさぶり、なにかがチャージされたのか足をかがめ、蹲踞のかたちをとり、天球を仰ぎ、尻の部分から猛烈な勢いでなにかを噴出させ飛び立った。コーラだった。霧状になったコーラを全身に浴びた俺はからだじゅうべたべたになった。べたべたのまましばらく自販機ロボが飛翔した夜空を見上げていた。星のない、雲だけが浮いている夜だった。